韓国のトマト施設栽培の状況

千葉大学園芸学部蔬菜園芸学研究室(教授:丸尾達先生、准教授:浄閑正史先生)の関係者が運営する「土葉会」という勉強会があります。年に数回の勉強会、見学会、シンポジウム等の例会を重ね、この1月末に第330回例会として韓国施設園芸の視察ツアーを2泊3日の行程で行い、私も参加致しました。ツアーでは韓国農村振興庁の研究機関、慶尚南道の大規模イチゴ団地などの視察をし、その概要をブログに記しましたので、よろしければご覧いただければと思います。

韓国慶尚南道・晋州市の約140ha大規模イチゴ団地

韓国の国立施設園芸研究所とハウス耐久性試験施設

また特徴の異なるトマト施設を2箇所の視察をしましたので、その概要を以下に記したいと思います。いずれも大玉トマト栽培での50t/10a程度の単収を実現しているとのことで、比較的レベルの高い韓国のトマト施設栽培であると思われます。

韓国型高軒高ハウスでの農家経営

訪問した施設は韓国南部の慶尚南道にあり、水田地帯に建設された韓国型の高軒高ハウス(約2,800坪=9,240㎡)です。これは大口径のアーチパイプの屋根構造と角パイプの支柱、及びトラス構造を組み合わせた高軒高ハウスで、1ha程度の規模が多く、谷換気と水平張二層カーテン、温湯暖房、ハイワイヤー栽培によりトマトやパプリカ栽培用に普及しているものです。

韓国型の高軒高ハウス

 

大玉トマトのハイワイヤー栽培

 

ここでは、オランダ品種の接ぎ木苗を夏に定植し、電気式温湯ボイラーを用いての加温栽培と韓国製の装置を用いた環境制御を行っています。冷房用の機器は特にありませんでした。外張被覆資材は日本製のPOフィルムで、性能面で韓国製フィルムより優れており韓国内で普及しているとのことです。谷換気の巻き上げは80m程度を1つのモーターで行っており、POフィルム以外のほとんどの機器資材類は韓国製とのことでした。初期投資は養液栽培装置、暖房装置、環境制御装置等を含め日本円で2億円弱で、日本の施設コストに比べるとかなり安価と言えます。

出荷される大玉トマト(オランダ系品種)

 

ハウス外張フィルム(PO系)、内張2層フィルムとアーチパイプ、トラス構造、谷換気装置

 

電気式温湯ボイラー

 

ここでは外国人労働者を雇用し、農場内のコンテナハウスを住居としていました。これは韓国の大規模施設では良くみられるものです。施設コストやエネルギーコスト(韓国の施設園芸向け電力料金体系では、日本円で4円台/kwh程度)が低く、外国人労働者を導入し、単収も50t/10a程度を実現することで効率的な経営をしているものと思われます。

ベトナム人労働者による高所作業

 

ハウス作業エリアに設置されたコンテナハウス

 

経営者の方はお留守でしたが、ここでは栽培コンサルタントの支援は受けておらず、かわりに慶尚南道の施設園芸研修機関であるATEC(Agricultural Technology Training Center)での研修を継続して受けているとのことでした。ATECには果菜類を中心とした栽培施設と外国を含む招へい講師による生産者向け無償研修施設があり、最新の情報の提供を受ける場でもあります。ATECが現場の生産者のレベルアップに果たす役割は大きいものと想像されます。

ATEC (Agricultural Technology Education Center)   撮影2017年2月

 

フェンロー型高軒高ハウスでの企業経営

訪問した施設(フェンロー型ハウス 3ha)は韓国の中部西岸の忠清南道にある、Octo & Jain という企業です。この施設には2017年秋にも日本施設園芸協会による調査で訪れたことがあり、栽培コンサルタントの導入状況などについて調査をしました(調査報告書:大規模施設園芸での技術コンサルティングと人材育成の検討(大韓民国・スペイン実態調査) は、こちら)。その調査時に聞き取った施設概要の情報を列記します。

【施設概要】
・面積 9300 坪のフェンロー型ガラス温室。
・設計:オランダ Bosman Vanzaal 社
・施工:韓国 Green Plus 社
・施工費:130 万 kW/坪(地中熱源ヒートポンプ一式と補光装置の 1/2 区画分を除外した温室
付帯設備一式)、約 12 億円/3ha。
・資金:先端温室事業による 100%融資。
・温室外寸:間口 8m×29 連棟、奥行 148m、軒高 6.5m、中柱ピッチ 4.5m。
・側面被覆:ガラス二層。
・ガター列数:4 本/間口。

・補光ランプ:4 台/トラス。1/2 区画分は 600W/台。残り 1/2 区画は 1000W/台。補光ランプ施工費は 15 万 kW/坪。
・冬期日射量(12 月~2 月上旬):800J。
・地中熱源ヒートポンプ:COP3(最低外気温-15℃、最高外気温は 30℃以上)。施工費は 15億 kW/ha。
・労働者宿舎:温室内にはなし(地域在住の韓国人、外国人を雇用)。

 

オランダの温室メーカーによる設計で、付帯設備の多くはオランダ製ですが、ヒートポンプは韓国製(サムソン)で、安価な電力料金による暖冷房(冷房は夏期の夜冷用とのこと)を行っているのが特徴です。また全面に補光ランプ(ナトリウムランプ)が設置され、採光性の良い複層ガラスと合わせ、光環境を良いものとしています。

社員によるプレゼン資料での施設全景

 

施設外観(軒高6.5mの複層ガラスハウス)

 

散乱光タイプ複層ガラスと補光ランプ、ハウス内は明るい環境にみえる

 

大玉トマトのハイワイヤー・ロックウール栽培、栽植密度:2.8~3.2本/㎡

 

大玉トマトの栽培状況(穂木:トラスト、台木:マキシフォート、カルディア)

 

収穫された大玉トマト、2割程度は日本向けに輸出

 

サムソン製の地中熱源電気式ヒートポンプ(熱交換配管は200m×300本を埋設)電力料金は平均日本円で4.3円/kwh

 

ガラス洗浄装置(年1,2回利用)

 

2015年に栽培を開始し、現在5作目で目標単収は55.7t/10aであり、1~4作目の実績単収は、おのおの34.5t、49.6t、51.6t、54.3t/10aとのことで、着実に伸びています。その実績は社員の方(Leeさん、前回にも説明をいただいた方)よりプレゼンを受けました。また前回に栽培コンサルを受けていただベルギー人のコンサルタントは、現在も契約しており、毎年新しい情報や指導を受けているそうです。このこともレベルアップに寄与しているものと思われます。

4作目までの実績単収(坪当たり)と5作目(今作)の目標単収

 

約3haの施設には生産担当で17名、選果担当で7名が働き、うち外国人労働者6名を雇用しているとのことです。またその他に社員がおり、うち1名はベトナム人とのことです。日本向け輸出を貿易商社経由で行っており、国内のトマト価格変動が大きいことに対し、安定した販売単価での契約がされているとのこと。また出荷経費(梱包、物流等)については、補助事業が関係しているようでした。

栽培施設は5年前のものでしたが、軒高も高く、散乱光タイプの複層ガラスと補光ランプが装備され環境も良く、また電気式ヒートポンプ利用と安価な電力料金体系によって高い生産性と低コスト生産を両立しているように伺えました。ヒートポンプは夜冷にも使われており、夏~秋の生育や収量にもプラスになっているようです。施設設備は100%融資で導入していますが、ヒートポンプ関係には補助金を利用しています。輸出を念頭においた様々な補助金が電力料金も含め投入されており、その成果が伺える企業経営と感じられました。

2つの施設を視察して

ハウスのタイプと経営の異なる2つの施設を視察しましたが、いずれも高い単収をオランダ系品種を用い達成していました。また施設設備費が安価であり、ハウス建設は補助事業ではなく融資利用を基本としていました。一方で電力料金、輸出振興、省エネ関係には様々な補助制度があり、それらを活用した大規模経営が定着している様子でした。また外国人労働者の利用が定着しており、おそらく外国人無しでは経営が成り立たないものと思われます。

韓国では最低賃金の急激な上昇により中小企業経営への影響が大きくなっていると聞き及びますが、外国人労働者の賃金については今回の調査では確認できませんでした。日本の外国人技能実習制度とは異なり、政府機関を通じて外国人労働者を受入れる韓国での状況は、引き続き調査が必要と思われます。

最後に、パプリカほどの量では無いにせよ、日本向け輸出が行われている韓国の施設トマト栽培について、その生産性やコスト面、生産施設と生産体系、技術支援体制など、日本の関係者は今後も注視すべきと考えます。