高度環境制御装置と養液栽培施設の導入面積

農水省の「園芸用施設の設置等の状況(H28)」は、施設園芸の面積や栽培品目、付帯設備の導入状況などを調べるための必須資料です。都道府県ごとの調査をまとめたもので、項目数も多岐にわたっています。施設園芸の付帯設備の中で、高度環境制御装置と養液栽培施設に注目して調査結果を都道府県単位で再考してみたいと思います。

施設園芸面積と加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積

施設園芸面積と加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積 (農林水産省:園芸用施設の設置等の状況(H28)をもとに作成)

 

グラフは施設設置面積の上位都道府県を左から並べたものです。施設園芸の盛んな都道府県がどこかは一目となります。また加温設備、高度環境制御装置、養液栽培施設の面積も都道府県ごとに加えています。施設設置面積に対し加温設備の導入比率の高い都道府県(宮崎、愛知、栃木、静岡など ※高知の加温設備面積の値は低すぎるようです)も一目となります。

宮崎県はほとんどが加温設備が入っており、同じ九州の熊本県では半分程度となっています。熊本県にはまだまだ無加温の施設が多いことになりますが、宮崎県の施設園芸はきゅうり、ピーマンを始めとする越冬栽培の比重が高いとも言えます。もちろん熊本県は施設設置面積も加温設備の導入面積も全国ではトップとなり、大産地を形成しています。

また愛知県、栃木県、静岡県といった施設園芸産地県でも加温設備の割合が高く、いずれもトマトやメロンなどの越冬栽培を中心に産地形成がされてきたと想像します。その次のグループが福岡、佐賀、長崎の九州勢、群馬、千葉の関東勢となり、トマトやキュウリを中心とした越冬栽培の産地がある県であります。また宮城県も半分程度に加温設備が導入されており、夏秋栽培と越冬栽培が同程度の面積であると言えます。宮城県は近年、大規模施設が数多く導入されており、加温設備の導入比率も上昇傾向にあると思われます。

高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積

同じデータから、高度環境制御装置と養液栽培施設の導入面積だけを取り出し、上位の都道府県だけを抜き出してグラフ化をしてみました。

 

高度環境制御装置、養液栽培施設の導入面積 (農林水産省:園芸用施設の設置等の状況(H28)をもとに作成)

このグラフでは、双方の装置設備の導入状況に異なる傾向が各都道府県で見られます。養液栽培施設面積>高度環境制御装置面積のところと、その逆のところに二分されています。養液栽培施設面積の比率が高い都道府県は、そもそも養液栽培が盛んなところで、愛知県のトマト、宮城県のトマトやパプリカ、香川県のイチゴ、大分県のトマトやイチゴ、静岡県のトマトなどです。そうした県は養液栽培の導入が先行し、後になってから高度環境制御装置の導入が進んだものと思われます。これは近年の動向に合致していると思われます。本来であれば双方の装置施設が導入されて相乗効果を上げていくべきなのでしょうが、タイムラグが実際にはあると思われます。

養液栽培施設面積の低い都道府県は、福島県、福岡県、熊本県、群馬県などで、養液栽培はそこそこ取り組んでいるところ、ほとんど取り組まれていないところと言えるでしょう。

このグラフを俯瞰してみると、施設設備の導入面積から見ると愛知県と宮城県が全国をリードしているように思えます。また養液栽培の歴史の方が高度環境制御技術の歴史よりも古いと言えるため、全体的には養液栽培施設の面積割合が高くなっていると思われます。

この先の装置設備導入の伸びしろがどの程度あるかは、なかなか読み取れませんが、養液栽培が先行して導入されている都道府県には高度環境制御装置の導入の余地があるように個人的には思えます。また土耕栽培が盛んな都道府県もあるため、養液栽培化が急速に進むかというと、そうでもないのではと思います。各都道府県の主要品目や作型などを思い浮かべながら読み取ると面白いグラフであると思います。