明けましておめでとうございます。令和初の正月を迎えましたが、新たな気持ちでこれからの施設園芸について、平成の施設園芸の動きや流れを念頭に考えてみたいと思います。
分業と連携の平成施設園芸
平成期の農業技術を総括した「平成農業技術史」が昨年出版されました。このブログでも概要をご紹介しましたが、昨年12月29日付日本農業新聞の読書欄において、同書の監修者である西尾敏彦氏(元農林水産技術会議事務局長)が平成の園芸について語られています。特に育苗について触れられており、セル成形苗利用と接ぎ木苗生産技術(全農の幼苗接ぎ木技術)などによって育苗の分業化が進んだこと、そして育苗業が各地で発達したことを取り上げられています。
このことで大量の苗の供給体制が出来上がり、特に大規模施設園芸の経営体や大規模な産地における一斉定植が行われるようになって来たものと考えられます。国内にある太陽光型植物工場での果菜類生産は既に育苗業無くしては成立せず、また全国の産地もJA育苗センターや育苗業からの苗供給があって栽培を開始できる状況にあります。こうした平成期の状況を西尾氏は、生産者と関連業者がスクラムを組む「分業化と連携型の農業の時代」と語られています。育苗の分業化などは後戻りすることは最早考えられなくなっており、特に生産面における分業や連携の動きは、令和期になっても進んでいくのではと考えられます。これは人手不足や担い手不足が顕著になる中での趨勢と言えるかもしれません。
収穫以降の分業化の次の動き
施設園芸における分業化は、すでに昭和期から産地における系統組織による選果出荷を中心に発達をしていました。平成期にも各地に大規模な選果場が建設され、生産者の作業負担を軽減し大量の出荷販売を可能としてきました。一方で生産者が選果のみならず販売や輸送も系統組織に委託することで、生産と販売を分断することにもつながってきたと思われます。自分の生産した農産物を値付けしたり差別化することが出来ないことで、系統出荷からの離脱者もみられるようになりました。しかし遠隔地を中心とした大産地では、依然として系統出荷のシェアは高いものと考えられます。
系統出荷では様々な手数料や資材費、運賃等の出荷経費が請求され、また販売単価の高低にかかわらず一定額がかかるものもあり、販売単価が低下した場合に経費率が上昇するという問題が考えられます。また出荷経費そのものも上昇傾向にあります。全国的に同一品目の出荷が集中すること、特に春先の果菜類販売において販売単価が下落傾向にある中で、こうした経費に関する問題は顕在化してくるかもしれません。一方で出荷経費を抑えながら地産地消や直売所販売を指向する動きや、自力で販路を開拓する動き、特に契約取引によって経営の安定化を目指す動きなど、平成期にすでに顕在化をしています。
また出荷における運賃上昇が激しく、積載率の向上が求められる中で、産地の単一品目だけではなく周辺の様々な品目を集めて混載し出荷する動きもみられるようになりました。これは分業化の中での連携の動きと捉えることができますが、単に荷を集めるだけの行為にとどまらず、集めた多品目の農産物を上手に販売する能力も求められ、またさらに実践されるものと考えられます。
農産物に価値が生まれ価格が付くのは、収穫以降の工程であり、規格に応じた選果や包装、梱包形態に応じて市場や実需先からの値決めがされ、さらに出荷と運送により売上につながる形となります。その価格や価値を生む工程を分業化し外部委託することは利益率の低下につながります。一方で一定規模の経営体や生産者グループは独自に選果機能を持ち、特徴を出しながらの契約出荷などを指向する動きもみられます。これは分業化から集約化への流れと捉えられるかもしれません。
以上のように収穫以降の選果や出荷、販売や運送の工程については、従来の系統出荷体制も続く中、新たな動きも平成末期頃から台頭してきました。令和期においても、施設園芸における農産物価格のデフレ傾向が続くようであれば、収益を確保するための工夫や新たな動きが、上記のような連携や集約化としてさらに現れてくる可能性も考えられます。
作型調整と生産連携の動き
平成期の施設園芸の生産面の特徴として、トマトを代表とする果菜類の作型が年2作型から年1作の長期作型に変化したことがあげられます。これには植え替えに伴う収穫休止期間を無くすことで総収量を向上する効果があり、また栽培施設の高機能化(高軒高施設による採光性向上や温湿度環境の安定化など)によってもたらされたと考えられます。そうしたメリットばかりではなく、長期栽培における栽培管理技術の高度化が必要になったこと、特に冬期寡日照期を越えるための精緻な樹勢管理が必要なことや、病害虫リスクが増しIPMにさらに取り組む必要があること、冬期のエネルギーコストが上昇することなど、デメリットもあげられます。しかし栽培施設が高機能なものに更新、あるいは新設される中では必然の動きとなり、全国的に単一的な作型に集約されるようになってきたと考えられます。
作型の単一化によって一時に同一品目が大量に出荷されやすくなり、そのため価格の低下を招きやすくなっています。生産と出荷の平準化は誰もが考えることですが、実際の取り組みは作型を変えなければ難しく、一部では高冷地栽培や環境制御技術の高度化により冬~春定植の夏越栽培を指向する動きもみられるようになりました。また高度な技術を用いず、従来型の抑制栽培の作型による夏~秋中心の栽培を低コストで行うことも、現実的な選択肢として残されています。
以上のような長期作型定着の流れは変わらないものの、その対抗的な作型への挑戦も垣間みられるようになり、令和期にはさらに変化が現れる可能性もあるかもしれません。またそうした変化が顕著になってくれば、主流である長期作型と上手に連携をとって周年の出荷平準化に取り組む経営体やグループも増えるのではないかと思われます。そのことが実需者へ向けた販売力を強化し、出荷価格と経営を安定化することにつながるためです。
令和期にスマート農業が施設園芸に果たす役割
以上、分業化と連携の面から、平成期~令和期の施設園芸における生産と販売について考えてみました。さらに平成末期に勃興し令和期におそらく急速に発展するであろうスマート農業の動きも、ここに加味する必要があると思います。生産技術の高度化にスポットが当てられることが多いスマート農業ですが、出荷や販売のツールとして活用しない手はないと考えるべきでしょう。生育予測から出荷計画に連携される考え方は多くで聞かれるようになりましたが、それを一歩進めて経営体やグループ同士での販売連携のツールとすることも有効と思われます。施設園芸のグループ化の流れが促進されるとすれば、ITツールの利用は不可欠と考えられ、スマート農業の出口のひとつに位置付けられるものと思われます。令和時代の施設園芸は、生産と販売の一体化が進みつつ、そこにグループ化の要素も加味された垂直統合+水平統合の両面の動きとなることを、新年に予想したいと思います。