最低賃金の上昇と施設園芸・植物工場経営

※グラフ:最低賃金(地域別最低賃金 全国加重平均額) 、労働政策研究・研修機構(JILPT)より

 

7月31日に厚生労働省より「令和元年度地域別最低賃金額改定の目安について」として報道発表がありました。これは同日開催された第54回中央最低賃金審議会による厚生労働大臣への答申によるもので、今年度の目安が示した引上げ額の全国加重平均は27円(昨年度は26円)となり、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額とのことです。また全都道府県で20円を超える目安額となっており、引上げ率に換算すると3.09%(昨年度は3.07%)となっています。  今後は目安額にもとづき地方最低賃金審議会で地域別最低賃金審議が行われ、都道府県での最低賃金額が改訂されていく流れとなります。

最低賃金の上昇傾向

報道発表では過去最高の引上げ額とのことですが、前年比の引上げ率では、平成28/27年度比の3.13%に次ぐもので、ここ4年間は毎年3%台の上昇となっています(表:地域別最低賃金の全国加重平均額と引上げ率の推移、同答申より)。

このように毎年3%台の最低賃金上昇があると、最低賃金額+αのレベルで雇用されるパート労働者が多い施設園芸や植物工場の経営には、ボディーブローとして効いてくるものと思われます。

施設園芸・植物工場の経営へのインパクト

上記の表における平成26年以降の引上げ率を今回の答申分まで積算してみると、5年間で約18%の引上げになります。年間100万円の給与を支払うパート労働者が10名いる場合、総給与額の1000万円に対し5年後には約180万円増額される計算になります。また生産費に占める労務費の割合は多くの事業者で20%~30%程度ですが、これを20%としますと生産費が5年間で約3.6%上昇することになります。生産費における資材代や、販売管理費における物流費、包装資材費なども年々上昇しており、これらを合わせると、施設園芸・植物工場の経営には影響が大きいと考えられます。

一方で、販売単価を見ますと価格転嫁が進んでいないことがあります。例えばトマトの東京中央市場への最近5年間の入荷状況は下表のようになっています。今年は6月までの半年分の集計値ですが、販売単価は低下傾向にあります。

入荷量(kg) 単価(円/kg)
2015年 84,620,932 371
2016年 84,557,646 391
2017年 84,867,573 361
2018年 82,726,231 371
2019年 42,545,543 315

データ:農畜産業振興機構「ベジ探」より、原資料:東京・大阪「市場月報」

重要な課題

冒頭の答申では、以下のことが述べられています。

中小企業・小規模事業者が継続的に賃上げしやすい環境整備の必要性については労使共通の認識であり、生産性向上の支援や取引条件の改善をはじめとする適正な価格転嫁対策等、思い切った支援策を速やかに実行するよう、政府に対し強く要望する。

ここでは賃上げに伴う課題を明確に示しています。すなわち、最低賃金の上昇に伴い、生産性向上を進める必要があり、さらに適正な価格転嫁対策も進めないと、中小企業・小規模事業者の経営には大きな影響が生じる可能性がある、と言えるでしょう。

価格転嫁が進まず、また春先など出荷量がだぶつく時期にはトマトなど価格が低下する傾向にあり、販売面の課題は大きいと考えます。単価を見込める時期への生産シフト、市場価格に左右されない販売の確立といった課題がありますが、生産体制の改善や組み換えも含めた対策が必要とされています。

もうひとつの課題に生産性の向上とその支援があります。賃金の上昇に見合う生産性の向上が獲得できれば経営へのインパクトは低減可能です。そのためには労働環境の整備、ひとりひとりの能力やモチベーションの向上、省力化投資などが必要となります。これらは中小の施設園芸・植物工場事業者で取組めることと、そうではないことがあり、外部からの支援策を固める必要もあるでしょう。

最低賃金の引上げは、以上のように経営に直結するものとなり、そこでの課題解決が施設園芸と植物工場の未来に影響を及ぼすと考えられます。