太陽電池を屋根面に装着した温室の研究事例紹介(園芸学会小集会より)

島根大学(松江市)にて、令和元年度の園芸学会秋季大会が開催中です。小集会というテーマ別の研究会が本日開催され、その中の「第6回栽培系・環境制御系融合型施設園芸研究」という会に参加しました。進行をされた東大の富士原先生(環境工学)によると、栽培系の学会である園芸学会に、環境制御系の研究者も参加し、両分野から施設園芸分野での新たなテーマについて自由にディスカッションしようというのが、会の趣旨のようです。両分野とも詳しい研究者は限られ、交流の機会も少ないと思いますが、施設園芸の実際の場面では両分野の知識や知見が必要とされます。橋渡しをされた研究者の方には敬意を表したいと思います。

会では島根大学生物資源科学部の谷野先生より「太陽電池を屋根面に装着した温室の研究事例紹介」と題して、温室屋根面に様々な形状や方法で太陽電池を設置した世界の研究を、ご自身の研究も含め取りまとめた貴重な講演がありました。谷野先生とは20世紀の終わり頃より、ビニールハウス屋根面への太陽電池設置と自動換気装置への独立電源供給のテーマで共同研究をさせていただいたことがあります。この分野は自分にとっても関係が深いものです。

温室側の消費電力量

最初に世界中の研究成果の中より、様々な地域や作物で温室栽培を行った際の1平方メートル当たりの年間消費電力量(単位:kWh/m2/yr)を一覧でまとめた表を示されました。サウジアラビアの温室でパッド&ファンを用いた場合、静岡県の温室でヒートポンプと重油温風暖房機を空調に用いた場合、スペインのペッパー温室で、暖房やカーテン等の各種環境制御機器を動作させた場合などを例示した貴重な情報でした。その中で特別なものを除けば、おおむね50kWh/m2/yr程度におさまるようです。こうした数値は独立電源として太陽光発電を利用する場合の発電量の目安になるかもしれません。

温室での太陽光発電例

温室は太陽光豊富な条件に立地することが多く、すでに世界各地では売電を目的とした屋根面での発電例がヨーロッパなどであり、中国でも2015年の温室での太陽光発電量が800MWhに達するとのことです。

一方で、作物への影響が懸念される太陽電池の影を緩和する方法が研究されており、太陽電池を分散配置する方法、ストライプ状で配置する方法(南北方向が良いとのこと)、市松模様に配置する方法などにより、一日を通して作物への影は避けられるとのことです。屋根面での太陽光発電は一見すると栽培にはマイナスと感じられますが、様々な工夫でそれを乗り越えられる可能性を示唆しています。また作物の光飽和点以上の太陽光を受けている場合も実際にはあり、その場合に余剰部分を太陽光発電に利用することが理にかなっていると考えられます。

影を作らないような太陽電池配置方法による栽培試験の成果も紹介され、日本のレタス栽培で50%分の面積に市松模様に配置し、かつ散乱光フィルムを用いた場合に、影による生育への影響がなかったとのことでした。この散乱光フィルムと市松配置の組み合わせは、現時点での現実的な方法のように思われます。会のテーマが「栽培系と環境制御系の融合」でありますが、こうした領域横断的な研究が盛んになれば、面白い成果が多く出るような気がします。谷野先生の長年のご研究も、こうした栽培試験と結びつくことで、更なる発展が期待できると思います。

今後の温室での太陽光発電と災害対策

作物の生育に大きな影響を及ぼさない範囲で温室屋根面での太陽光発電が可能であれば、売電収入が期待でき、生産者の収益向上にもつながるでしょう。副業的な取り組みとして注目されるかもしれません。それより注目したいのは、停電時、自然災害時での非常用電源としての活用です。現時点でも停電による二次災害が千葉県内で広範に発生している台風15号のような自然災害は、今後も多発することが考えられます。電気のない生活や営農は考えられなくなっており、その際にそれなりの発電規模を持つ温室での太陽光発電は、平常時の売電用電源から災害時の非常用電源に切り替えて利用することも容易と考えられます。もちろん温室自体に強風などへの耐候性が求められますが、その上での発電利用となります。

施設園芸は太陽光の他、水も利用しており、地下水をポンプでくみ上げ利用するケースも多く、非常用電源があれば生活インフラとして活用することも可能ではないかと思います。また温室のそばに事務室や作業所が併設されている場合もあり、緊急避難場所としての活用もあるかもしれません。

自然エネルギー活用し、自然災害とも向き合わなければならない施設園芸だからこそ、災害対策への活用も合わせて考える時期に来ているように思います。利用する自然エネルギーは太陽光に限らず、バイオマスや地熱、温泉熱など、地域の特徴にあったもので良いでしょうし、自然や気象との折り合いをつけ生活する宿命にある我が国にとっては、価値あるテーマになるのではと個人的に感じている次第です。