韓国の施設園芸での外国人労働者の今

日本と韓国の外交関係、経済関係に暗雲が立ち込めています。農業や施設園芸の分野でも農産物や種子、資材等の輸出入で両国のつながりは深く、これから様々な影響が発生するのかもしれません。流動的な状況で論評は控えたいと思いますが、改めて韓国の施設園芸の特徴である外国人労働者雇用について、日本と比較しながら振り返りたいと思います。

韓国での外国人労働者の雇用政策

韓国は日本と同様に移民政策を取っていません。しかし3K現場などでは労働力不足があり、外国人労働力の受け入れについて政府を通じて行っています。韓国労働研究院 研究員 キム・キソン氏の「韓国における外国人労働者の雇用法制及びその課題」(2012)では、韓国の外国人労働者の雇用法制における原則をあげていますので、引用します。

その 1 、単純労務分野への限定を原則とする。外国人雇用法が適用される在留資格は、非専門就業(E-9)と訪問就業(H-2)とし、主に未熟練外国人労働力を対象とする。

その 2 、国内労働市場の補完を原則とする。これは外国人労働力の導入が国内労働市場に 否定的な影響を及ぼしてはならないということで、国内で不足する労働力は、高齢者や女性等、国内の遊休労働力の活用を優先し、外国人労働力は補充的に活用すべきことを意味する。 この原則に従い外国人雇用法では、外国人労働者の雇用許可を得ようとする使用者に、「内国人の求人努力」を必須要件として規定している。

その 3 、外国人定住化防止の原則である。これは、単純労務を提供する外国人労働力が韓国社会に長期滞在することによって発生する国内労働市場の混乱の問題のみならず、結婚、 出産、子供の教育等社会的費用の増大を防止するための就業期間の短期循環を意味する。こ の原則に従い外国人雇用法では、就業期間の最長期間を制限し、出国後 6 カ月が過ぎないと再入国及び再就業ができないこととしている。

最後に、内外国人の均等待遇の原則である。これは合法的に就業した外国人労働者に対する不当な差別を禁止すると同時に、国内の労働関係法を同等に適用することを意味する。この原則により、外国人雇用法では差別禁止に関する規定を明確に規定し、外国人労働者は必 ず雇用契約を結ぶこととしており、既存の産業研修生制度とは異なりこの法律に沿って就業する外国人労働者を労働者として認めている。

これらの原則に従い、農業、施設園芸分野でも単純労働を対象として、補充的(国内雇用が集まらない場合の外国人雇用)に非定住での雇用(最大3年+延長1年1月、家族の呼び寄せは無し)を進めています。韓国政府機関がビザを発給し、施設園芸事業者が直接雇用をする形です。そして研修制度ではなく外国人を労働者として認め、国内の労働関係法を適用して差別をしないこととしています。2012年の時点では、産業全体での導入規模は57000人、うち農畜産業では4500人でした。

※引用文献:「第12回日韓ワークショップ報告書 外国人労働者問題:日韓比較」(2012)、独立行政法人労働政策研究・研修機構、3-20 https://www.jil.go.jp/foreign/report/2012/pdf/2012_1001.pdf

 

韓国の施設園芸での外国人雇用の実態

2018/12/8付けの私のブログ記事「日韓の外国人受け入れ制度と施設園芸」で、以下のことに触れました。

韓国は国策で外国人労働者の受入れに舵を切り、国がその管理と窓口業務をやっており、専門の政府組織を持っています。外国人は渡航費のみの負担で韓国に来て、国が受け入れて「雇用許可制度」の仕組みで、一定基準を満たした受け入れ先企業への就職が可能になっています。また3回までの転職が可能であり、受入れ企業間の競争条件が担保されて低賃金や劣悪な労働条件を回避するような仕組みになっているようです。

韓国のこの制度は、韓国人労働者の雇用を奪わない様な制度設計がされているようです。例えば、永住権は認めないが期限後の再入国は可能として、労働需要の答えながら人数の管理をすること、人気のない企業に対して優先的に外国人を回すこと、業種ごとに不足する労働者数を推計して、その数だけの外国人を受け入れることなどです。

参考文献)高安雄一「韓国の「外国人労働者の受け入れ制度」が大成功した理由…韓国人の失業者増えず」、Business Journal 2018.5.30

日本の外国人技能実習制度と比べると、最初から労働者として位置づけをしており、入国後の就業教育などを経て労働者として受け入れいる点が大きく異なっています。また事業者が直接雇用をする形であり、雇用人数も政府がコントロールしている点も、韓国の制度の特徴であると思います。日本の制度に比べると、非常にすっきりしたものという印象です。

 

韓国の施設園芸での不法滞在外国人労働者の増加

7月28日付け日本農業新聞総合面に金哲洙記者の記事「外国人雇用 韓国の今」として、

韓国は不法滞在者を減らし、企業のコスト削減につなげるために、外国人労働者制度を導入した。しかし、制度開始から15年、不法滞在者が減るどころか、むしろ近年は増えている。外国人労働者の賃金が上昇し、農家経営を圧迫するケースも出ている。

とあります。そして、最低賃金基準以上の支払い義務が雇用側にあり、年々賃金が上昇する中で正規の外国人労働者を雇えなくなる農業経営者が増え、不法滞在の外国人を安く雇うケースが増えているという記事内容でした。不法滞在での労働報酬でも自国での給与の何倍も韓国では稼げるため、不法滞在者が増えているということのようです。

記事には2019年の韓国の最低賃金基準での時給が8350ウォンとあり、日本国内の低いレベルの都道府県の賃金と同程度のようです。これより低い賃金であっても不法滞在の外国人が韓国の施設園芸で働いていることになります。冒頭のような制度が整備されていたとしても、実態はその通りには行っていない、ということになると思います。外国人労働者に依存する状況で、コスト面で見合わなくなると、農業経営そのものが危機に陥いり、不法滞在者にさらに依存する状況になって来たものと言えるでしょう。

日本の施設園芸でも、外国人技能実習生に依存した産地も見られますが、国内全般では全面的に依存した形にはまだなっていないと思います。また最低賃金レベルでの雇用でもコストが合わないとなると、経営そのものの問題であり、不法滞在者に依存することは避けるべき事態であると思います。人手不足の中で外国人に頼らざるを得ない場面も、日本でも今後は増えてくると思います。しかし全面的に頼るとなると、韓国のような事態も含め様々なリスクが生じることも念頭に入れる必要があるでしょう。