養液栽培面積の増加
養液栽培の面積は年々増加していますが、最近の平成28年の農水省調査では、施設栽培面積43,220haに対し養液栽培面積2,003haで約4.6%でした。平成19年の同調査では、施設栽培面積50,608haに対し養液栽培面積1,375haで約2.7%でした。この9年間で施設栽培面積はマイナス7,388haと約14.6%減少し、養液栽培面積はプラス628haと約45.7%増加しています。
一方で施設栽培面積から養液栽培面積を差し引いた土耕栽培面積は、平成19年には49,223ha、平成28年には41,217haとなり、マイナス8,006haと約26.3%の減少となります。この数字だけ見ると土耕栽培の減少率に対し、養液栽培の増加率が非常に高く見えますが、いまだに施設栽培面積の95%以上は土耕栽培となり、日本の施設園芸の中核を占めていると言えるでしょう。
品目別の養液栽培面積
次に品目別に見てまいります。グラフは年次、作物別の養液栽培面積(単位:ha)です。この中で養液栽培の多くを占めるのがトマトといちごです。当初よりトマトの比率は多く、その後も安定的に伸びてきたと言えます。また、いちごの伸びも安定しています。次に多い「その他」の内訳は明らかではありませんが、ほうれんそう、ベビーリーフなどの葉菜や、パプリカなどの果菜が該当していると思われます。
品目別の養液栽培実面積推移(単位:ha) 資料:農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)
農林水産省 園芸用施設の設置状況等(H28)によると、平成28年にはトマトの栽培延面積約7,083haに対し養液栽培実面積は約720haとなっており、いちごでは栽培延面積約3,856haに対し養液栽培実面積は約661haとなり、他の野菜よりも比率は高いと思われます。その背景として、トマトの大規模施設ではほとんどが養液栽培(固形培地耕)を導入していること、いちごでは省力化や観光農園用に高設栽培が普及していること、などがあげられます。
それにしてもですが、トマトでもいちごでも施設栽培の大半は土耕栽培であり、オランダのように養液栽培が中心の施設園芸とは様相が異なっています。
養液栽培と土耕栽培の未来
先ほどのグラフの傾向を見る限りでは、今後も養液栽培面積の増加が見込めるかもしれません。施設の大規模化と養液栽培の導入には高い関係があり、企業参入や農業法人の経営拡大にともなったそうした傾向は今後も続くことが考えられます。
しかし、中小規模の個人経営農家の場合、大規模施設への設備投資のみならず、養液栽培への設備投資にどれだけ積極的になれるかは、未知数な部分もあると思います。導入に対する費用対効果がまず気になる部分であり、導入によって経営の損益分岐点が上昇する分を収量増や売上増でカバーする必要がありますが、トマトのように市場価格が低下傾向にある品目では投資にはどうしても及び腰になるかと思います。キュウリやイチゴであれば単価が安定しているため投資の計算もしやすいかもしれません。実績のあるイチゴ養液栽培の面積増、養液栽培の実績がまだ少ないキュウリ栽培の動向など、注視すべきことになると思われます。
養液栽培の動向を中心に考えておりますが、養液栽培と比較した場合に土耕栽培にも様々なメリットがあります、例えば・・
- 設備投資が少なく、損益分岐点が低い
- 栽培ベンチやベッドが無い分、空間容積を有効に使える
- 土壌からハウス内への水蒸気やCO2の供給がある(マルチ展張による低減はある)
- 土壌消毒期間を長くとるため、休養期間も長い
- 脱着式レールを敷設することで、高所作業車も養液栽培と同様に利用できるようになった
ということがあると思います。
一方で、デメリットとして
- 作替え時の土壌消毒や堆肥投入が必要で、栽培期間も短くなり、労力も余分にかかる
- 土質や土壌の均一性により、保水性や排水性が異なり、調整が必要
- 養液栽培に比べれば根圏の容積は大きいが、少量多頻度潅水を行わないと水分率の変化が起こりやすい
- 土壌病害のリスクがある
- 初期の土壌改良が必要な場合がある
- 大規模栽培では、堆肥投入作業や土壌消毒作業の負担が大きい
以上のような両面があり、ケースバイケースで判断が必要なところもあると思います。最終的には投資を伴うことなので、収量や売上、作業労力や投入資材などの経済性と、栽培技術の難易度などを総合的に評価する必要があるでしょう。いずれも絶対ではなく、未来に向けて残ることは間違いないと思います。また環境負荷の問題も含めた総合的な評価が必要な時代になっていると考えます。