44年前(昭和53年)のシンポジウム「施設園芸とエネルギー」に学ぶ

昨年来の燃油やLPガスなどの価格高騰は、冬期の暖房を控える動きなど、生産や流通、そして施設園芸経営に大きな影響を及ぼしています。振り返ると昭和40年代のオイルショックにおいて、重油を燃焼し冬春期に果菜類の出荷をしていた施設園芸経営にも、同様な影響があったと思われます。ここでオイルショックを経て、昭和53年(1978年)に日本農業気象学会により開催されたシンポジウム「施設園芸とエネルギー」の内容を振り返り、現在でも通用するであろうエネルギー対策や燃油等高騰への対策について、同シンポジウムの要旨(参考文献1))を基に考えてまいります。

シンポジウムの概要

要旨の冒頭で学会長の坪井八十二氏が挨拶を述べています。そこでは将来の重要課題として食料とエネルギーをあげ、資源に乏しく国土の狭い我が国にとって将来の死活を左右する重要問題としています。また、もともと農業はエネルギー転換産業であるとした上で、施設園芸は積極的エネルギー利用によって、この転換を飛躍的・効率的に促進する生産方式であるとしています。そして自然エネルギーの合理的利用こそ施設園芸の原点でなければならいないとしています。また施設園芸にはなお改善・解決を要する問題は多数で、関係するあらゆる学会の協力が必要として、園芸学会、生物環境調節学会、農業施設学会など関連学会の代表の話題提供によるシンポジウムを企画したとあります。この企画は、現在の農業工学系学会と園芸学会の合同のシンポジウムと言え、栽培系と工学系の研究者が一堂に会したものだったでしょう。

作物側と環境制御側からの改善

大阪府立大学農学部の矢吹万壽氏は、施設園芸(文中では施設農耕)について、消費されている石油量は年間約65万klで全石油消費量の0.3%であり、これが多いか少ないかは価値判断によるものとし、さらに農業生産者の立場に立って付加エネルギー量を少なくして安定した環境を作り出すことを考えることが必要としています。そして付加エネルギー減少による環境の安定度低下に対し、作物側からの対応も必要であり、品種改良による生育の高温並びに低温限界を拡げること、栽培面から作型、作目などにより、どの程度環境に対応できるか、光合成能を高め生産性を増し、光合成産物の転流促進、体内消費を少なくする環境の探索をあげています。また環境制御技術面から太陽エネルギーの有効利用と付加エネルギーの制御ができるハウスの構造と技術の確立、施設内環境と病虫害の発生の関係についての環境調節面からの研究、播種から収穫までの環境と生産の管理に対するコンピュータ利用技術の確立をあげています。

矢吹氏があげた作物側と環境制御技術側の観点は、いずれも現在の施設園芸でも基礎的かつ重要な観点と言えるでしょう。矢吹氏は農業気象学、生物環境調節工学の著名な研究者ですが、育種の重要性や植物生理面からの付加エネルギー減少(省エネ)への対応を述べています。育種については低温伸長性といった特性で語られることが多いと思いますが、生育が限界となる温度を指標とする点が生物環境調節工学からの観点と言えるでしょう。現代でも作物の基底温度について、改めて学ぶべきと思われます。また施設内環境と病害虫の発生について触れているのも改めて課題と思われます。多湿環境での病害発生に対し加温と換気の併用で除湿を行うことも多いためです。最後に、現代でも普及の途上にあるコンピュータによる環境管理に加え、生産管理でのコンピュータ利用に触れています。

温度管理面からみた野菜栽培の省エネルギー

神奈川県園芸試験場の板木利隆氏は、エネルギー効率を高めるため暖房における熱をいかに効率的に用いるか、について栽培技術の立場から温度管理技術の課題を提示しています。そこでは、主要な施設果菜の生育適温や暖房による最低必要温度や最低地温や、低夜温管理の影響と節湯効果について述べています。後者ではオイルショック以降に検討された低夜温管理について、慣行の暖房温度を2℃下げることで20%の減収に、4℃では30%の減収になり、経済性資産では、上物率低下も著しいためキュウリではおのおの47万円と70万円/10aの収入減としています。また、こうした問題を補うための夜間変温管理による増収と燃費節減による経済効果の両立をあげています。

その他、板木氏は作期変更による燃油節減について、露地ものとの競合による収益性の低下をあげており、そのため年間を通じて抑制栽培へのウェイトを高め、促成の開始期を遅らすことでの省燃料と収益向上を達成した事例が多いこともあげています。以上のように実際に野菜栽培における燃油節減策と、それによる経済効果を評価することで現実的な解決策を探ることは、現代でも必要な手法と考えられ、また作期の変更は近年でも多くの経営体で取り組まれている手法と言えるでしょう。

コンピュータによる温室環境管理

千葉大学の古在豊樹氏は、省エネルギー、省資源、省力および環境程の問題は、施設園芸における最重要課題の一つとし、それらの問題解決のためには情報の総合的利用が必要であること、またコンピュータ利用による情報の総合的利用による投入エネルギーの節減について述べています。さらにコンピュータによる環境制御について、暖房燃料の節減、突風やボイラー故障などの異常事態に対する適切な措置、故障の少なさ、管理記録がとれること、制御法の変更をプログラム変更だけで行えることなどの利点をあげています。一方でコンピュータ利用が考えられるのは3,000㎡以上のガラス温室とし、さらにコンピュータ利用は施設の重装備化ではなく、あくまで軽装備化、省エネルギー化、省力化のためにすべきとしています。

現代の施設園芸におけるコンピュータ利用は、統合環境制御装置やクラウドを通じてのICT化などに発展していますが、省力化には役立っているものの、省エネのための積極的な利用になっているかは検討の余地があると思われます。実際にどの程度のエネルギーが使用されたか、それが生産にどの程度寄与しているかなど、見える化にはなかなか至らない場面がほとんどかもしれません。また規模と施設装備の面でも、3,000㎡程度の施設が多い現代では、コンピュータ化の必要性は多いにあると言え、実際の環境制御装置の導入は一部にとどまっているのが現状です。おそらくその点を補うのが、より低コストな環境モニタリング装置やクラウドサービスになるものと考えられますが、省エネについての取り組みは始まったばかりと言えるでしょう。

おわりに

要旨の一部についてご紹介しましたが、当時の研究者の提言は現代でも十分通用するものがあり、我々も指針として改めて参考にすべきと思われます。当時の施設園芸における燃油高騰に対し多くの研究者が要旨にあるように取り組んでいました。現代では研究者も少なく、研究面からのフォローが受けにくくなっている状況もあると思います。一方で現場のデータは様々な形で得られるようになっているため、それらを関係機関や生産者自身が分析、評価できるような仕組み作りも求められると考えられます。

参考文献:
昭和53年度全国大会シンポジウム「施設園芸とエネルギー」要旨, 農業気象34(3): 141-148, 1978  https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010174359