日本野菜育苗協会の総会に参加しました

苗生産業界の団体である日本野菜育苗協会(以下、育苗協会)の総会が大阪府堺市で開催され、参加いたしました。

日本野菜育苗協会とは

育苗協会は前身の日本野菜育苗研修会の時代から、全国の野菜育苗の生産者組織として活動し、年2回の総会・研修会を中心に、会員間や関係組織との情報交換や交流等を行っています。また次世代の会として育苗協会内の若手経営者の交流や研修等の活動も行われています。会員数は70社で全国の野菜苗生産者や生産法人が参加し、また種苗会社や資材会社等の賛助会員も50社を数え、大きな組織に広がっています。

記念講演「サラの佐野さん」

堺市での総会には約150名の出席があり、記念講演を株式会社サラの取締役最高執行責任者の佐野泰三さんがされました。サラのホームページで公開されている内容を中心に講演をされました。タイトルは「未来の野菜カンパニーをめざして」で、これからの野菜生産への心意気を語られ、「バイオマス発電事業を併設した世界最先端の施設野菜ビジネス」として、Smart Agribusiness Research & Alliance (SARA)のコンセプト、具体的には農業ビジネスを補助などをなるべく受けず、様々な関係機関(農業資材、種苗、IT、物流、流通)と共に研究を続けること、外部との連携を進めることを社名の由来として語られました。佐野さんのSARAの紹介のご講演は本邦初ということで、トマト(5.7ha)、パプリカ(3.2ha)、リーフレタス(2.2ha)の生産販売と、大規模な木質バイオマス発電(10MW)を紹介されました。

初めての栽培、初めて農場作業を行うパート従業員の方々への教育など、ご苦労のお話もされましたが、トマト、パプリカ、レタスとも夏越栽培を終えられたところで、出荷量も1農場としては大きく、地元や関西四国方面を中心に販路を形成されている様子でした。

施設設備の特徴として、軒高8mに及ぶガラス温室で、作物エリアごとに最適な被覆資材(ガラス)を選定していること、半閉鎖型の施設設計で、天窓が通常の1/4程度しかなく、換気扇での外気導入後にパッドによる気化冷却を行い、またその排気を外部に排出したり内部で循環させたりする調節が可能なこと、バイオマス発電での廃熱より温水や冷水を作り空調に利用すること、さらに燃焼排気を浄化しCO2を利用することなどをあげられました。

 

会員との交流

育苗協会の会員の皆様は全国におられ、全国的な企業から、地場での苗供給を行う家族経営的な育苗業まで様々です。地域の施設園芸事情に精通しているのはやはり後者の地場の育苗業の方々です。熊本県の方からは、近年の補助金施策でハウス建設が急増し、特にトマト栽培が増加したものの相場低迷で苦しむ生産者が増えていること、その中でも生産量を伸ばし、系統出荷に頼らず品質と単価を確保した販売をしている生産者も中にはいること、一時は低迷したスイカ栽培が増加しており、大玉スイカから小玉系などへのシフトがあることなど、最近の状況を伺いました。

育苗協会の会長は千葉県山武市の綿貫園芸の綿貫社長で、このたびの千葉県の台風や豪雨による被害や対応についてもお話を伺いました。千葉県の多くの施設園芸関係者が台風について甘く見ていたことがあり、今回の多大な災害を経験をしたことで今後は真剣にハウスの補強対策などを進めることになることを見通されていました。しかし水害については生産者による対策は難しく、地域の排水や雨水処理などは行政による対策が必要であることを言われておりました。

また各地の方々に、その地域のハウス補強対策をお聞きする機会にもなりました。パイプの太さや補強資材の設置本数(間隔)も様々で、台風常襲地帯での準備は周到であり、熊本のように今でも被覆資材(農ビ)を毎年張り替えながら、いざという時には剥ぐ準備もしている地域が今でもあり、千葉県の施設園芸はまだ学ぶことが多いと感じたところです。

 

接ぎ木ロボット利用

人手不足対策として接ぎ木ロボットの利用について情報交換を行いました。既存の接ぎ木ロボットの問題点や、既存のロボット接ぎ木方法の弱点を克服するための育苗方法改善や活着を向上する接ぎ木方法の導入など、新たな動きも伺えました。育苗業の主力商品はトマトやキュウリなど果菜類の接ぎ木苗で、播種、発芽、1次育苗、接ぎ木、養生順化、二次育苗、出荷と非常に多くの工程があり、高い技術と人手を要する作業が多いのが特徴です。労働生産性を高め、人手不足に対応するためにも、接ぎ木ロボット利用が現場では求められています。しかし前後の工程も含めた作業の最適化設計や接ぎ木品質の向上など、テーマはまだ多くあるように感じられました。現地視察の接ぎ木ロボットの実演では、従来の接ぎ木クリップ利用による台木と穂木の固定方式に対し、テープによってキュッと巻くような固定を拝見することができました。

 

賛助会員からの展示紹介

育苗協会の特徴として賛助会員数が多く、当日も参加者の半数が賛助会員企業の方々でした。LED補光装置、バイオスティミラント資材など新分野の商品紹介もありました。日照条件が悪い時期や地域でのLED補光利用は、価格低下により選択肢のひとつになって来ていると感じられました。

 

現地視察

大阪府内の会員さんの農場に視察に伺いました。年季の入った鉄骨ハウスやパイプハウスが並び、昨年の台風にも耐えたとのことで、コンクリートブロックを利用した基礎の敷設、内張カーテンに張られたワイヤーによる補強など独自の工夫がされていました。またキュウリの接ぎ木用の治具の説明があり、切断の角度を決め刃物を機械的に動かすものなど、お金をかけず作業性や効率を追求する技術は手堅いものでした。

 

育苗協会からの顧問の委嘱

長年、育苗協会の技術顧問をつとめられた板木技術士事務所の板木利隆先生が10月に90歳で亡くなられました。総会の冒頭にそのお知らせがあり、全員で黙祷が捧げられました。またありがたいことに後任として私をご指名いただきました。板木先生には遠く及びませんが、施設園芸での野菜生産を支える苗生産業のお力になれるよう、つとめてまいりたいと思います。