鉄骨ハウスやパイプハウスなど園芸施設の面積について、隔年で農水省より公表されています。最新のものは平成28年の調査で、「園芸用ガラス室及びハウスの設置実面積は43千ヘクタール(調査値は43,220ha)であり、同施設における栽培延べ面積は、野菜45千ヘクタール、花き7千ヘクタール、果樹5千ヘクタールであった」としています。一方で経年の面積も公表されており、「施設園芸をめぐる情勢」という農水省資料では、次の「ガラス温室及びハウスの設置実面積の推移」のグラフが示されています。
園芸施設の設置実面積の推移
この図では面積のピークは平成11年の53,516haであり、先ほどの平成28年面積の43,220haはその約80%と縮小しています。また平成26年面積が43,232haであり、それに対しての平成28年面積は下げ止まったように思えますが、この先も低下傾向にあると見た方が良いと思います。
園芸施設の設置実面積と新設面積
農水省の園芸施設面積の調査では、その年に新設された面積も掲載されています。調査年ごとの数値を表にまとめました。
表1 園芸施設の設置実面積と新設面積(ha)
H11 | H13 | H15 | H17 | H19 | H21 | H24 | H26 | H28 | |
①設置実面積 | 53,516 | 52,266 | 52,288 | 52,209 | 50,608 | 49,049 | 46,449 | 43,232 | 43,220 |
②うち新設面積 | 1,746 | 1,828 | 1,491 | 1,064 | 945 | 659 | 620 | 559 | 487 |
②/① (%) | 3.3% | 3.5% | 2.9% | 2.0% | 1.9% | 1.3% | 1.3% | 1.3% | 1.1% |
この表からは、新設ハウス面積はピークのH13の1,828haからH28の487haまで、1/4程度に急減していることがわかります。また設置実面積に対する新設面積の割合も3.5%から1.1%と低下しています。時系列的に見ても新たな園芸施設への投資は一貫して減少していると言えるでしょう(数値訂正:2019/11/10)。
園芸施設の廃棄面積
園芸施設の新設に対し、実際には廃棄もあるはずです。調査の数字には表れていませんが、前年からの面積増(減)と新設面積から、廃棄面積を算出してみました。調査が隔年であるため、非調査年の値を線形で補完しています。
表2 園芸施設の設置実面積と新設面積及び廃棄面積(ha)
H11 | H12 | H13 | H14 | H15 | H16 | H17 | H18 | H19 | |
①設置実面積 | 53,516 | 52,891 | 52,266 | 52,277 | 52,288 | 52,248 | 52,209 | 51,408 | 50,608 |
②前年からの増減 | -625 | -625 | 11 | 11 | -40 | -40 | -801 | -801 | |
③新設面積 | 1,746 | 1,787 | 1,828 | 1,660 | 1,491 | 1,277 | 1,064 | 1,004 | 945 |
④廃棄面積 | 2,412 | 2,453 | 1,649 | 1,480 | 1,317 | 1,103 | 1,805 | 1,746 | |
④/① | 4.6% | 4.7% | 3.2% | 2.8% | 2.5% | 2.1% | 3.5% | 3.4% | |
H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | |
①設置実面積 | 49,828 | 49,049 | 48,182 | 47,315 | 46,449 | 44,840 | 43,232 | 43,226 | 43,220 |
②前年からの増減 | -779 | -779 | -867 | -867 | -867 | -1,609 | -1,609 | -6 | -6 |
③新設面積 | 802 | 659 | 646 | 633 | 620 | 589 | 559 | 523 | 487 |
④廃棄面積 | 1,581 | 1,439 | 1,513 | 1,500 | 1,486 | 2,198 | 2,167 | 529 | 493 |
④/① | 3.2% | 2.9% | 3.1% | 3.2% | 3.2% | 4.9% | 5.0% | 1.2% | 1.1% |
ここでの④廃棄面積は、③新設面積ー②前年からの増減で算出しています。直近の値は小さくなっていますが、例年1,500~2,500ha(近年は500ha)程度の園芸施設が廃棄されていると考えられます。その割合は園芸施設の実面積に対しおおよそ3%~5%の範囲が多くなっています。なおH28とH26の実面積に変化が無かったのは、廃棄面積が少ないことが要因と考えられます。施設の耐久性向上や長寿命化により廃棄が減少する傾向にあると思われますが、以前に比べ廃棄面積が急減しているため特異的である可能性も考えられるでしょう。
またここでは、H14からH28の15年間での新設面積の累計は約13,000haであり、廃棄面積の累計は22,000haとなっています。廃棄面積に対する新設面積の割合は約59%となります。スクラップアンドビルドは進んでいるものの、廃棄面積が新設面積を上回り、園芸施設実面積の減少要因となっていると言えるでしょう。
15年後の園芸施設面積の予想
ざっくりとした予想をしてみます。毎年、園芸施設実面積の3%が廃棄され、また新設面積が毎年487ha(H28年の値)あると仮定します。その場合のH28の15年後(R13)の実面積を試算したのが下表です。15年後には33,328haとなります。
表3 15年後の園芸施設実面積の試算(毎年3%が廃棄、新設が487ha) (単位ha)
H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
設置実面積 | 43,220 | 42,411 | 41,626 | 40,865 | 40,126 | 39,410 | 38,715 | 38,041 |
新設面積 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | |
廃棄面積 | 1,297 | 1,272 | 1,249 | 1,226 | 1,204 | 1,182 | 1,161 | |
R6 | R7 | R8 | R9 | R10 | R11 | R12 | R13 | |
設置実面積 | 37,387 | 36,753 | 36,138 | 35,541 | 34,962 | 34,401 | 33,856 | 33,328 |
新設面積 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 | 487 |
廃棄面積 | 1,141 | 1,122 | 1,103 | 1,084 | 1,066 | 1,049 | 1,032 | 1,016 |
これよりも厳しい予想をしてみます。毎年、園芸施設実面積の5%が廃棄され、また新設面積がH28年の値である487haに対し毎年5%減っていくと仮定します。その場合の15年後(R13)の実面積は23,589haとなります。
表4 15年後の園芸施設実面積の試算(毎年5%が廃棄、新設が487haから毎年5%減) (単位ha)
H28 | H29 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | |
設置実面積 | 43,220 | 41,547 | 39,932 | 38,376 | 36,875 | 35,428 | 34,034 | 32,690 |
新設面積 | 487 | 463 | 440 | 418 | 397 | 377 | 358 | |
廃棄面積 | 2,161 | 2,077 | 1,997 | 1,919 | 1,844 | 1,771 | 1,702 | |
R6 | R7 | R8 | R9 | R10 | R11 | R12 | R13 | |
設置実面積 | 31,396 | 30,150 | 28,949 | 27,794 | 26,681 | 25,611 | 24,580 | 23,589 |
新設面積 | 340 | 323 | 307 | 292 | 277 | 263 | 250 | 238 |
廃棄面積 | 1,635 | 1,570 | 1,507 | 1,447 | 1,390 | 1,334 | 1,281 | 1,229 |
以上の前提条件での試算では、15年後のR13の園芸施設面積は23,589ha~33,328ha程度と見通すことができます。これはH28の43,220haに対して55%~77%という割合になります。自然災害の多発などを踏まえると、前提条件の妥当性については何とも言えないところがありますが、おおよその見通しということでご理解ください。いずれにせよ大幅な面積減の中で、いかにして生産性を維持するかということが課題として浮かび上がります。人口減と担い手や働き手の減少と合わせ、施設園芸における生産性向上を改めて考えるきっかけになればと思います。