日本農業新聞の6月3日付けアグリビジネス面に、石原邦子記者の署名記事として、導入が進む統合環境制御技術について、各社製品の紹介や導入状況について紹介がありました。石原記者には私も何回かお会いしたことがあり、常に丁寧な取材をされる方です。
各社の統合環境制御装置の導入状況
1面を使った記事ですが、農業資材メーカー各社のハウス統合環境制御装置の6機種の一覧表が掲載されています。代表的な製品名が載っており、製品の特色と発売年、税別価格とセンサー等のセット内容が記載されています。また販売台数が製品によっては一桁単位で掲載されています。シリーズ合計で数百台の製品もあれば、発売約1年で二十数台という製品もあります。この二十数台の数字に非常にリアルなものを感じました。石原記者が各社を回り、取材の趣旨を丁寧に話され、色々と聞き取りをされる中で出てきた数字ではと思いました。非常に興味深い記事となっています。農業資材業界には業界紙と呼ばれるニュースレターが発行されていますが、業界内向けの記事がほとんどであり、資材の価格や出荷量などをおおまかに伝える記事が多くみられます。この記事のような機器の実販売台数といった記事は正直に言いまして業界紙ではみたことがありませんでした。
ここでは製品名や販売台数の数字は控えますが、取材を受けた各社も公開に積極的になっていることが伺えます。記事にある販売台数の合計は2000台程度でした。最新の機器の他、シリーズ合計台数も含まれており、統一したものではありませんが、国内の統合環境制御装置の導入実態を部分的ではあるものの示す数字であるでしょう。この数字を多いとみるか、少ないとみるかですが、私は何万台ではなく何千台が実態の値ではないかと思っております。
農林水産省が公表する平成28年の園芸施設等の状況によりますと、園芸施設設置実面積が約43,200haに対し、うち高度環境制御装置があるものが約1,000haです。環境制御装置1台で20aをカバーしていれば台数は5000台になり、50aをカバーしていれば2000台になります。やはり導入実態としては数千台とみるべきでしょう。
今後の統合環境制御装置の普及展開
前述の平成28年の園芸施設等の状況によれば、施設園芸面積は減少から下げ止まり傾向に累年の数字では見てとれます。しかし高齢化の進展や施設老朽化などから廃業や施設の廃棄は今後も必ず進みますので、新設施設が増えなければ面積の維持は難しくなります。一方で園芸施設の価格は上昇傾向にあり、簡単に施設ができるとは言い難い状況にあるでしょう。
こうした状況に対して、既設施設のリニューアルや設備強化などによる生産性の向上が考えられます。追加投資は必要なものの、費用対効果を高めた投資で、いかに生産性を上げていくか、また安定的な生産を確保するか、といったテーマになります。統合環境制御装置の普及は、まさにその流れにあるわけで、導入と栽培技術の向上によって単収が数割上昇している例は多く見られます。一方で、春先など一時に生産量が集中することで、販売単価の低迷が起るなど、マイナス面も出ています。短期的には、そうしたマイナス面もあるでしょうか、中長期的には施設面積や担い手は減少傾向にあると思われ、やはり生産性を高める流れで行くのではないかと思います。
統合環境制御装置の導入が今後、どのようなペースで進むかは記事からは読みとれませんでしたが、比較的低価格の機器の普及が進んでいる様子もうかがえ、やはり費用対効果が重要と思われます。また価格だけではなく、記事にはありませんでしたが、各機器がどの程度の面積をカバーするものか、50a~1haなどの大面積施設にも対応するかなども、費用対効果に影響します。今後、施設の大規模化が進めば、必要とされる機器の仕様も変わってくるでしょう。
環境制御技術以外の生産性向上要素
記事には、熊本県の施策として5年前にゼロだった県内の統合環境制御の導入面積を本年度末までに120haにする目標を紹介しています。さすが熊本県でスケールが違いますが、担当部署のコメントとして「地上部の制御技術だけでは収量は伸びず、今後は地下部の技術を確立する必要がある」とあります。熊本県では土耕栽培が主体であり、環境制御による地上部管理だけでなく、地下部の水分管理や肥料管理が伴う必要があるということになります。また記事には、「市況低迷に対し収量向上だけでなく、利益向上のため損益分岐点を農家が探っている」とあり、こちらでも費用対効果が重視されているということになります。すなわち、環境制御技術も重要ですが、その他の技術もバランス良く導入し、総合的に収益を高めることが必要と言えるでしょう。