農林水産省が行う農林業センサスは、農林業の生産構造、就業構造、農山村の実態を総合的に把握するために、5年ごとに農林業を営んでいるすべての農家、林家や法人を対象に実施する調査です。国勢調査も行われた本年はその年にあたり、去る11月27日に「2020年農林業センサス結果の概要(概数値)」が公表されました。調査期日は2020年2月1日現在のもので、前年12月中旬~2月末に調査員により全ての農林業経営体に対し行われています。
5年ごとの調査であり、調査内容は毎回改正がされています。今回の改正として以下のことがあげられています。
- 個人経営体、団体経営体ともに、従事者の性別、年齢、従事日数階層を調査し、農業労働力の全体像を把握
- 後継者の確保状況や、収入保険制度の加入要件である青色申告の実施状況、有機農業の主要品目の作付面積などを新たに把握
- 専兼業別統計や農業就業人口など、ニーズの低下した調査事項は
廃止
またその他に、「データを活用した農業を行っている経営体数」に関する新たな調査項目も加えられており、概要で示された内容をご紹介いたします。
農業経営体の減少と法人化や規模拡大の進展
農業経営体数について、冒頭に次の2つの記述があり、注目されます。
農業経営体は 107 万6千経営体、林業経営体は3万4千経営体となり、5年前に比べそれぞれ 30 万2千経営体(21.9%)、5万3千経営体(61.2%)減少した。
農業経営体のうち、個人経営体は 103 万7千経営体で、5年前に比べ 30 万3千経営体(22.6%)減少した一方、団体経営体は3万8千経営体で1千経営体(2.6%)増加した。
農業経営体数の減少と団体経営体数の増加が同時に起こっています。また団体経営体についてさらに次の記述があります。
団体経営体のうち法人経営体は3万1千経営体で、5年前に比べ4千経営体増加
した。この結果、団体経営体に占める法人経営体の割合は 80.1%となった。
また、法人経営体の内訳をみると、会社法人は2万経営体、農事組合法人は7千経営体となり、5年前に比べそれぞれ3千経営体、1千経営体増加した。
以上のことから個人経営体の減少と法人経営体の増加が、この5年間の国内農業の変化の傾向と言えるでしょう。このことは1農業経営体当たりの経営耕地面積の推移にもあらわれており、今回は3.1haと5年前の2.5haに対して24%増加しています。また全国の経営耕地面積は3,256,731haと5年前の3,451,444haに対して6%減少しています。
施設野菜の経営体数推移
施設園芸に関するものとして、「農産物販売金額1位の部門別経営体数」に施設野菜では全国で60,961経営体とあり、5年前の71,093経営体に対して14.3%減少しています。これは農業経営体数全体の減少に比べると少ない割合となっています。
施設面積については、今回の概要には示されていませんが、農林水産省の別調査である「園芸用施設の設置等の状況(H30)」では平成30年は42,164haで、9年前の平成21年の49,049haに対して16.3%減少しています。この傾向から施設面積の減少より経営体数の減少が大きく、1施設園芸経営体当たりの施設面積は増加傾向にあると言えるかもしれません。
今回の概要には示されていない「施設園芸に利用した施設のある経営体数と施設面積」は、5年前は全国で174,729経営体と3,825,443a(1経営体当たり21.9a)、10年前は 192,973経営体と4,359,493a(1経営体当たり22.6a)でした。農林業センサスの調査では10年前から5年前にかけて施設面積が大きく減少( 12.3%)しており、別調査の「園芸用施設の設置等の状況」での年次傾向と乖離が見られたため、今回の2020年の調査の結果(確報と呼ばれ2021年に公開予定のもの)に注目したいと思います。
データを活用した農業を行っている農業経営体数
今回改正された調査内容のひとつに「データを活用した農業を行っている農業経営体数」があります。これは国の施策である「データ駆動型農業」の推進が背景にあるものと思われます。下表に、その結果を示します。
これについては、以下の記述があり、個人経営体と団体経営体ではかなりの開きが見られます。
データを活用した農業を行っている農業経営体数は 18 万3千経営体で、農業経営体に占める割合は 17.0%となった。
また、団体経営体についてみると、データを活用した農業を行っている経営体数は1万7千経営体で、団体経営体に占める割合は 45.6%となった。
なお、データを活用した農業に関して、用語の解説に以下の4つの記述があります。
農業経営を行うためにデータを活用:効率的かつ効果的な農業経営を行うためにデータ(財務、市況、生産履歴、生育状況、気象状況、栽培管理などの情報)を活用することをいい、次のいずれかの場合をいう。
データを取得して活用:気象、市況、土壌状態、地図、栽培技術などの経営外部データを取得するツールとしてスマートフォン、パソコン、タブレット、携帯電話、新聞などを用いて、取得したデータを効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用することをいう。
データを取得・記録して活用:「データを取得して活用」で取得した経営外部データに加え、財務、生産履歴、栽培管理、ほ場マップ情報、土壌診断情報などの経営内部データをスマートフォン、パソコン、タブレット、携帯電話などを用いて、取得したものをこれに記録して効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用することをいう。
データを取得・分析して活用:「データを取得して活用」や「データを取得・記録して活用」で把握したデータに加え、センサー、ドローン、カメラなどを用いて、気温、日照量、土壌水分・養分量、CO₂濃度などのほ場環境情報や、作物の大きさ、開花日、病気の発生などの生育状況といった経営内部データを取得し、専用のアプリ、パソコンのソフトなどで分析(アプリ・ソフトの種類、分析機
能の水準などは問わない。)して効率的かつ効果的な農業経営を行うために活用することをいう。
用語の定義として独特のものがありますが、最後の「データを取得・分析して活用」について、ハウス内の環境データや植物の生育データに関する記述がみられます。これらを取得・分析して活用している個人経営体は全体の0.9%で、団体経営体は7.2%とあり、こちらも大きな開きがあります。施設園芸に関しての具体的な数値はありませんが、こちらも来年公表となる確報にて注目をしたいと考えます。
以上のように2020年農林業センサスでは、データ駆動型農業に関する新たな調査内容が加えられており、今後も国の施策の推進とその成果について調査が継続されるものと思われます。