今さらですが、植物工場には太陽光型植物工場と人工光型植物工場があります。その定義をおさらいしてみます。
農商工連携ワーキンググループでの検討
2009年から農林水産省と経済産業省が共同で開催した「農商工連携研究会植物工場ワーキンググループ」での検討で、次のような定義が行われています。
「植物工場は、施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設である。この概念にあてはまる栽培施設として、大きく分けると、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して周年・計画生産を行う『完全人工光型』と、温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術などにより周年・計画生産を行う『太陽光利用型』の2類型がある(後略)。」
これを読むと明らかなように、植物工場は施設園芸の一種と定義されています。さらに施設園芸の中で、以下の3条件に合うものを植物工場と言っています。
・施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分など)を制御して栽培を行う施設園芸であり、
・それらのうちで、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、
・野菜などの植物の周年・計画生産が可能な栽培施設。
植物のモニタリングと生育予測
10年前の定義ですが、現在での通用するものと思います。生育環境の高度な環境制御は、施設園芸全体の数%で行われていると言われます。また生育のモニタリングや生育予測については、さらにそれらの一部で行われている、もしくは取り組まれ始めていると考えられます。10年前に生育予測について言及していたことは、かなり先を見ていたと言えるでしょう。簡単な収量予測であれば、前年や平年の実績と現状を比較し、さらに着果数などをモニタリングして精度を高める手法が現在は取られています。
このワーキンググループで言う生育予測は、施設内環境と同様に、植物の生育そのものをダイレクトにモニタリングするようなことを言っていると、文脈からは読み取れると思います。それについては、一部で実用化は進んでおりますが、広く現場で取り入れられているわけではないでしょう。
施設園芸と植物工場、スマート農業へ
この点にこだわれば、施設園芸と植物工場の違いにフォーカスできるかと思います。より精度の高い生育予測によって、計画生産や計画出荷の精度を高めることで、植物工場での野菜などの生産技術に到達できる、という考えになります。技術志向的なコンセプトに感じられますが、現在、盛んに取り組まれているスマート農業へのステップアップとも捉えられます。
5年前の農水省のスマート農業の将来像に関する報告では、スマート農業を「ロボット技術、ICTを活用して、超省力、高品質生産を実現する新たな農業」としています。さらにその一分野として「作物の能力を最大限に発揮」があり、そのことを「センシング技術や過去のデータに基づくきめ細やかな栽培<精密農業>により、作物のポテンシャルを最大限に引き出す多収・高品質を実現」と説明しています。
「作物のポテンシャルを最大限に引き出す」という言葉が盛り込まれ、より高い生産性を目指すのがスマート農業と言えそうです。そのプロセスでは植物の生育モニタリングや生育予測も要素技術として活用されるはずです。またスマート農業では、技術志向のところはあるものの、作物のポテンシャルに言及しているように、植物にフォーカスを当てた技術を更に指向しているように感じとられます。
以上のように、施設園芸~植物工場~スマート農業の流れを追っていくと、未来の農業へのステップがイメージできそうです。