日本農業新聞の5月3日付け1面トップに「施設園芸情報一元化 全戸にシステム普及 AIが分析栽培最適化・・」との見出しの記事があります。
高知県の施設園芸の進展
高知県では施設園芸は主要産業であり、知事のリーダーシップで様々な施策を進めています。技術面では、CO2施用などの環境制御装置の普及が行われ、それをサポートする専門の普及指導員の育成もされてきました。また天敵の導入もいち早く行われるなど環境保全型農業が施設園芸にも浸透しています。また、次世代型ハウスと称する高軒高ハウスの導入も支援しており、木骨ハウスと農業用ビニール利用のイメージが強かった施設園芸の現場も施設や設備の近代化が着実に進んでいると思います。
今回の新聞記事は、従来の施設園芸施策と成果をベースとして、さらに企業との共同研究成果による収量予測の精度向上や、IoPクラウドと呼ばれている様々なデータを一元管理する仕組みを構築し、施設園芸の全戸に普及させ、集まるデータをもとにハウスごとの栽培内容を見える化、AIが栽培モデルを作ったり、技術の高い農家のデータをもとに営農指導などに活かすというプロジェクトの紹介と思われます。非常に広範囲な仕組み作りと思われ、プロジェクトとしても施設園芸分野ではかつてない規模で現場を巻き込むものと考えられます。
内閣府の地方大学・地位産業創生交付金の高知大学への採択
この記事の内容は突然現れたものではなく、おそらく内閣府の「平成 30 年度地方大学・地域産業創生交付金」に高知大学などが応募して採択された「“IoP(Internet of Plants)”が導く「Next 次世代型施設園芸農業への進化」を元にしたものと思われます。
この交付金の趣旨は内閣府によると「地方を担う若者が大幅に減少する中、地域の人材への投資を通じて地域の生産性の向上を目指すことが重要。このため、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」に基づく交付金として、首長のリーダーシップの下、産官学連携により、地域の中核的産業の振興や専門人材育成などを行う優れた取組を重点的に支援する。これにより、日本
全国や世界中から学生が集まるような「キラリと光る地方大学づくり」を進め、地域における若者の修学・就業を促進する。」とあります。
高知県では、高知大学や高知工科大学、地元のJA組織や金融機関、工業会などが参加する産官学連携プロジェクトとして採択され、初年度交付金が481,769 千円で5年間の交付が予定され、その5年間で10年先に向けた地域の自走をはかる趣旨となっています(参考ホームページ:平成 30 年度地方大学・地域産業創生交付金の交付対象事業の決定について 内閣府地方創生推進事務局)
高知大学を中心とした大規模プロジェクトの内容
高知大学は、「“IoP(Internet of Plants)”が導く「Next次世代型施設園芸農業」への進化 」として、プロジェクトの概要を公開しています。参加機関や専門家の数が多いことが目を引きますが、主要なテーマは次の3つのようです。
- 全国に先駆けてオランダの最先端技術を取り入れて普及を開始した「次世代型施設園芸システム」を、多様な園芸作物の生理・生育情報のAIによる可視化と利活用を実現する「IoP(Internet of Plants)」等の最先端の研究により、飛躍的に進化させる。
- 「Next次世代型農業」の展開と「施設園芸関連産業群の創出・集積」、「アグリフードビジネスを担う人材育成」などを通じて、「若者の定着・増加」を図る。
- 「Next次世代型農業」の普及とさらなる高度化を図る仕組み「IoP推進機構(仮称)」により、自走する体制を目指す。
このテーマから読み取れる内容は、オランダからの先端技術導入などで進化した施設園芸を、作物の情報まで対象に広げたAIを利用した高度なシステム(予測や栽培技術支援などと思われます)で進化させ、関連作業を発展させ、人材育成を大学などを通じ行って、若者の定着をはかり、それらを10年先を見据えて組織的に行う、ということだと思います。若者人口のこれ以上の流出を防ぐという深刻なテーマが大元にあって、その対策に内閣府が交付金によって支援を行うという枠組みと考えらます。
技術的にはAIやクラウド利用といった点に目が向きがちですが、県全体で10年がかりのプロジェクトに取り組むという志や危機意識も、この記事からはくみ取るべきでしょう。巨大プロジェクトのため、全容は記事からは理解しがたい面もありますが、このような交付金が法律で定められ、全国の7か所で動き出しているということです。施設園芸の関係者は、高知大学や高知県の試験研究機関、先端的な施設園芸関係者の動向にもこれから注視すべきかと思います。